飛蚊症が出た時に最も注意すべき病気は、網膜はくりです。今回は網膜はくりについて説明します。
まず、網膜とは目のフイルムにあたる部分で、図のオレンジ色で示した薄い膜です。網膜は視神経とつながっており、目で見たものの情報を視神経を通じて脳に送っています。この網膜はその後ろの組織(茶色で示す、脈絡膜)とは実は引っ付いておらず、接触しているだけです。網膜は脈絡膜から栄養分をもらっているので、網膜がはがれる(網膜はくり)とその働きが落ちていき、場合によっては失明してしまいます。
網膜はくりの多くは網膜の薄いところがある(網膜周辺部変性)が原因です。これは遺伝性とも言われていて近視の方の20人に1人くらいにあります。
その網膜の薄いところはコラーゲンの膜との癒着が強いため、加齢などによりコラーゲンの膜がはがれるとき(飛蚊症が出るとき、後部硝子体はくり)に、網膜自体に裂け目(網膜裂孔)を作ることがあります。この裂け目は網膜の薄いところがある方の10人に1人くらいに起こすと言われています。この裂け目ができた時に、同時に網膜はくりをおこしている場合もまれにありますが、網膜の裂け目だけで網膜はくりになっていない場合が多いです。この状態は、散瞳(瞳を開く目薬)してから、眼底検査(網膜を顕微鏡などで見る)で発見することができます。その段階で網膜をはがれないように癒着させるレーザー治療(外来ですぐにできる)をすれば、多くの場合網膜はくりへの進行を防ぐことができます。これが、飛蚊症が出たら念のために検査した方がいいという理由です。
ちなみに令和2年度の1年間に当院を受診された飛蚊症の患者さんのうち網膜の裂け目ができて治療が必要になった方は54名でそのうち10名が入院して網膜はくりの手術をされました。
次にすでに網膜はくりをおこしている場合は、残念ながらレーザー治療で治すことはできないことがほとんどです。入院して網膜はくりを治す手術を受けていただく必要があります。病気には自然に治るものもありますが、網膜はくりに関しては、一旦はがれた網膜を元に戻すような力がはたらくことは決してありません。よく網膜はくりは痛くないのに手術しないといけないのかと聞かれますが、網膜自体には痛みの感覚(痛覚)が全くありません。
さらに網膜はくりの手術のタイミングについて説明します。人は視覚のほとんどを網膜の中心部(黄斑)に頼っています。網膜はくりが網膜の中心部まで達していない段階で手術できれば、視野はある程度欠けが残りますが、視力は維持することができ、生活や仕事に影響がないことが多いです。しかし、網膜はくりが網膜の中心にかかっていれば、視力は元通りにならず、ゆがんで見える症状が残ります。さらに網膜全体がはがれた状態でほっておくと、目自体がしぼんで小さくなったり(眼球萎縮)、黒目が白く濁ったり(角膜混濁)することで、視力だけでなく見た目にも影響を残すこともあります。ですので、網膜はくりはできるだけ早く見つけ、対処することが重要です。
編著 下関市 まつもと眼科 眼科専門医 松本博善