よく患者さんから、失明しないように白内障の手術を早くしたいと言われることがあります。
白内障はほっておくと失明するのでしょうか。まず失明の定義ですが、WHOでは矯正視力(メガネをかけた最高の視力)が0.05以下を失明としています。日本での失明原因についてみてみると、表のように、1位緑内障、2位糖尿病網膜症、3位網膜色素変性、4位加齢黄斑変性、5位強度近視ということで、白内障は入っていません。失明する病気のほとんどは、視神経と網膜の病気です。視神経と網膜は脳細胞と同じように、一度障害されると完全には元に戻りませんので、失明してしまうことがあります。それに対して、白内障はどんなに進行していても、手術で水晶体の濁りを取り去れば、治ってしまいます。ですから、現在の日本では、非常にまれな場合を除いて白内障は手術すれば失明することはほとんどありません。
では白内障で失明してしまう非常にまれな原因とは何でしょうか。一つ目は、白内障の手術ができない場合です。手術するためには全身状態が良くないとできませんので、手術が必要になった時に、寝たきりや強い認知症などの方は場合によっては手術できないことがあります。二つ目は、白内障が強いために、目の奥の病気が見逃されていて、白内障は治っても、目の奥の病気により見え方がよくならなかったといったことがあります。三つめは、非常にまれですが白内障により水晶体が膨らんで目の中の水の出口をふさいで、急性緑内障を起こして失明してしまうことがあります。四つ目は、白内障手術の合併症により失明してしまう場合です。確率は非常に低いですが、目の中にばい菌が入ってしまったり、網膜剥離や大出血を起こしたりして失明することがあります。
ですから、「白内障は手術しても、手術しなくても失明することは非常にまれである」が正解です。白内障の手術は、早すぎず、遅すぎずがよいと思います。
編著 下関市 まつもと眼科 眼科専門医 松本博善