白内障手術は早くした方がいいと聞いたと患者さんからよく言われますが、最近新しい考え方があるようなのでお伝えしたいと思います。
これまで私たち眼科医は、眼内レンズは何年もちますか?と聞かれたら、眼内レンズはプラスチックのようなものなので、人間よりはるかに寿命は長いですとお答えしてきました。
ところが、最近ある高名な先生の講演で新しい考え方をうかがいました。白内障手術では、水晶体の袋を残し、袋の中に眼内レンズを入れることで、眼内レンズが目の中で安定するのですが、白内障手術をしてしまうと、水晶体を支えるひも(チン小帯)が弱くなっていく可能性があるとのことです。水晶体は水晶体嚢と呼ばれる袋の中に液体と固体が充満した状態ですが、白内障の手術をするとその水晶体の中身が眼内レンズに置き換わることで、その水晶体のひもにかかる力が変化し、水晶体のひもが弱くなっていく可能性があるとのことです。さらに水晶体のひもが弱くなると、ひもが切れたり、のびたりして、眼内レンズが目の中でずれる、脱臼という状態になり、再手術が必要になることも出てきます。
白内障手術による眼内レンズが開発されて30年以上が経過し、眼内レンズが脱臼する症例が増えてきているという状況は感じていました。しかしそれは体質と加齢が原因と考えていましたが、白内障手術自体が原因になっている可能性があるということがわかりました。つまり、白内障手術を受けてから亡くなるまでの期間が長いと、再手術が必要になるかもしれないということです。
ですから、以前からお伝えしている、白内障の手術は早くしすぎてはいけないという意見に新たに一つ理由が見つかりました。
編著 下関市 まつもと眼科 眼科専門医 松本博善