黄斑の病気の症状には、ものがぐにゃぐにゃに曲がって見えたり、反対の目に比べてものが大きく見えたり、逆に小さく見えたり、中心部の視野が欠けたり、色が違って見えたりすることなどがあるとお伝えしました。
様々な黄斑の病気の経過や治療などについては、今後のブログでお伝えしようと思いますが、今回は黄斑の病気の患者さんから、治療後にしばしば「完全には治っていない」と言われることがあるので説明します。
一つ目の理由は、神経細胞は再生しないからです。黄斑は網膜の一部で、網膜は脳細胞を含めた神経細胞の一部です。神経細胞は、それ以外の細胞と異なる性質を持っています。私たちの体は細胞からできており、神経細胞以外のほとんどの細胞(体細胞)は、増殖(細胞分裂して増えていく)する能力を持っています。この働きにより体が傷ついたときには、傷ついた細胞が、別の細胞が分裂することでつくられる新しい細胞に置き換わっていくことで、回復していきます。しかし、神経細胞にはその能力がありません。その理由は、ある細胞が別の細胞に置き換わることによって困ることがあるからです。神経細胞はそれぞれに特定の役割があり、細胞同士がつながりあっています。例えば脳の細胞であれば、元々の記憶を持つ細胞が傷ついた場合、傷ついた細胞自体は分裂することはできませんので、別の細胞が分裂してその代わりをしてしまうと、全く別の記憶に置き換えられて、混乱してしまうことになります。目の神経で考えると、黄斑のある部分の細胞が傷ついて、別の新しい細胞に置き換わるとします。元々の細胞につながっていた脳の部分と、新しい細胞がつながっている脳の部分は違うので、映像がゆがめられて伝わってしまいます。
二つ目の理由は、黄斑の神経細胞は非常に高密度で配置されているからです。ものを見る時に非常に細かいところまで見えるように、網膜のド真ん中の黄斑には網膜全体のうちの多くの神経細胞が集中しています。ですからほんの少し障害されただけでも、見え方の異常を来たしてしまいますので、少しでも障害が残ってしまうと、見え方の異常が治っていないと自覚しやすいのです。逆に、黄斑以外の網膜の神経細胞は障害されても、視野が少し狭くなったことを感じるくらいで、それほど自覚症状が出ないことが多いです。
このように、黄斑の病気は一度なってしまうと、完全に症状が良くなってしまうことは難しい病気と言えます。
編著 下関市 まつもと眼科 眼科専門医 松本博善