ブログ「糖尿病網膜症、見えていれば大丈夫?」でお伝えしたように、糖尿病網膜症の治療で重要なのは糖尿病黄斑浮腫と糖尿病網膜症の進行を止めることです。今回は糖尿病網膜症による視力低下の8割をしめる糖尿病黄斑浮腫の薬による治療について説明します。
糖尿病黄斑浮腫とは、網膜の中心部にあたる黄斑に水ぶくれをおこした状態です。水ぶくれをおこすと、網膜の神経が徐々に弱っていき、ものがゆがんで見えたり、中心部が見えにくくなったり、ものの大きさが左右の目で違って見えたりします。
糖尿病による高血糖が続くと、網膜の毛細血管に炎症がおこったり、血管がつまってしまったり、老化物質などが過剰に出たりします。それにより細胞から血管内皮増殖因子(VEGF)という物質が過剰に出たり、毛細血管にこぶ(毛細血管瘤)をつくったりします。VEGFは毛細血管にはたらき、水もれをおこします。毛細血管瘤は壁が弱いため、やはり水もれをおこします。水もれが網膜の中心部(黄斑)に及んだ状態が黄斑浮腫です。
糖尿病黄斑浮腫の治療には
1,抗VEGF薬の眼内注射
2,ステロイド薬の目のまわりへの注射、眼内注射
3,レーザー治療(網膜光凝固)が主にあります。
1の抗VEGF薬の眼内注射については、黄斑浮腫がおこる過程にVEGFが大きく関与しているので、VEGFのはたらきを抑えようという治療です。薬が目の中(硝子体)にとどまっている数か月間だけ効くので、治療を繰り返す必要があります。薬も高額なので、患者さんの負担になってしまいます。
2のステロイドの注射については、黄斑浮腫の過程の炎症が関与している部分を抑えるはたらきにより、病状を改善させます。目の外の周りの組織(目と骨の間の柔らかい組織)または目の中(硝子体)に薬を注射します。効果は数か月ですので、治療を繰り返す必要がありますが、ステロイドの副作用としては、眼圧が上がることがありますので、打ち続けることはできません。
3のレーザー治療については、別のブログで説明します。
4の全身浮腫の治療については、体全体がむくむ腎臓の障害がある方が、人工透析をはじめたら、黄斑浮腫が治ったという経験をすることがあります。
実際には、これらの中から安全性が高く、治療費が安く、効果が期待できそうなものから試していくことになります。糖尿病黄斑浮腫は多くの方で数年治療を続ければ落ち着くことが多いので、その間なるべく水ぶくれがない状態を長く保つことが、視力を保つことにつながります。
編著 下関市 まつもと眼科 眼科専門医 松本博善